飲食産業新聞

「今だけ、金だけ、自分だけ…」という3だけ主義の克服

健康と持続可能性を考えた
「ロハス」運動で社会変革を

2014.11.25

 衆院が解散された。12月14日の投開票まで安倍晋三政権の約2年間の実績や政策の方向性などを問う選挙戦に入る。経済政策や成長戦略、いわゆるアベノミクスの是非について「国民の判断を仰ぎたい」とした。衆院が21日に解散(アベノミクス解散)され、12月2日公示ー14日投開票の「師走選挙」が走り出した。
 阿倍首相の仕掛けとタイミングが巧いなと思っていた22日の夜、長野県北部に震度6弱の地震が襲った。東日本地震の時ほどの揺れではなかったが、ドドーンと激しく揺れて怖さと不安が20秒程続いた。しばらく興奮し眠れず、翌朝までうとうとする状態だった。白馬村、小川村、長野市の一部等が被災し、被災者は41名、重症者7名、家屋の全壊•半壊54棟、大糸線などが不通となった。
 それにしても師走選挙と地震は関係があるのだろうか。確か田中角栄首相の時も八丈島東方沖地震(一九七二年12月4日)があった。長野県や他府県の人々にとって、この師走選挙は非常にしんどくて辛いだろう。地方の中小•零細企業もそうだが、特に飲食店の悪戦苦闘が目に浮かんでくる。それだけにこの師走選挙はそれぞれ「今だけよければ、お金だけあれば、あるいは自分だけよければ…」という姿勢の見えない候補者をイデオロギーに関係なく選んで欲しい。
 ここ最近注目されている「今だけ、金だけ、自分だけ…」という3だけ主義の克服と新しい日本について提唱している経済アナリストの藤原直哉氏は、「昔の日本ではこんな3だけ主義の人はあまり表に出てこなかったし、世の中をリードするような立場に付くことはなかっただろう」という。最近はそういう人が本当にあちこちにいて、しかも政治や経済の地位の上の人にもそういう人が多くて、多くの日本人がうんざりしているという。
 勿論、政治家や経済人のみならず、大方の人も「今だけ、金だけ、自分だけ…」という3だけ主義にいつの間にか染まり、それに気付かない日本人が多くなった。例えば「今さえよければ先々のことを考えずに借金ばかり積み上げるとか、未来の成長の芽を摘んでしまうとか、姑息な問題先送りとか、危険の隠ぺいをするとか、将来の子孫のことを考えずに環境を汚す」といったことだ。
 また「カネだけというのはとにかくカネをもらえば何でも言うことを聞くとか、カネが儲かるなら何をしてもいいとか、カネのためなら何でもするとか、株価さえ上がれば何でもいいとか、補助金が貰えさえすればよいとか、カネ以外の価値観が何もないとかいうこと。自分だけというのは自分さえ出世すればとか、自分がカネを貰えさえすればとか、他人や弱者や社会や未来の人たちのことなどどうでもいいとか、自分自身の利害損得以外何も考えないとか」という人である。
 言い換えすれば、一番合理的な経済人というのは「今だけ、カネだけ、自分だけ」という人達ということになる。従って「未来のことを総合的に考えて行動すると今の行動に歯切れが悪くなるからよくない」「すべての価値は価格に換算されるから、すべてカネで測った価値で物事を判断する」「とにかく自分の利害損得にどこまでも忠実に行動すれば、あとは市場が調整してくれるから世の中は良くなる」という考え方である。
 しかし、である。実際に世の中はどこの国でもそういう経済合理的な人間が増えて、貧富の格差がどこまでも拡大し、社会は乱れに乱れて撹乱されて、結局世界的大恐慌の出口が見えなくなって来ている。日本でもどこまでも日銀が国債や株や不動産投資信託を買い入れて、株価だけは上げて、しかし円安で物価が上がり実質所得の伸びないほとんどの人々は不景気と物価高で困難が増すばかりである。
 カネだけ出しても世の中はよくならないと思うし、金融緩和を終わりにしたら国債が暴落する可能性も高く、財政破綻の危険を未来に先送りして「今だけいい」という話にもなる。そして結局、豊かになるのは金持ちと日本からカネが流れる米国ばかりという構図が見えて来る…。
 さてここで「今だけ、カネだけ、自分だけ」の3だけ主義を否定して、新しい社会を創ろうというのが「健康と持続可能性を考えたライフスタイル、即ち『ロハス』の追及」という動きである。「ロハス」とは健康と持続可能性、これを維持する生活様式の略で米国で生れた造語。健康や環境問題に関心の高い人々のライフスタイルを営利活動に結びつけるために生み出されたマーケティング用語である。
 そもそも「今だけ、カネだけ、自分だけ」というのは、現在の近代文明のある部分を根本的に支える考え方である。それを原理主義的に世の中に広めると、経済でも政治でも正に今の日本や世界みたいな状況になる。そのため世の中に貧困と絶望が増え、怨嗟(えんさ)の声が広がり、社会が乱れていく。「ロハスの追及」は今だけではなく未来のことも考えて、また過去の歴史も大事にしよう。お金にならない価値観、人間性や博愛も大事にしよう。自分以外の他人やよその国、動植物や環境のことも大事にしようということだ。
 それを一人一人の生き方として確立し、そういう生き方をすべての人が達成できるような社会を創ろうというのが「ロハス運動」である。この運動はそれは昔のような右翼と左翼の対立から生まれたものではなくて、近代文明の矛盾に気が付いた人たちが保守と革新の枠を超えて、積極的に自分自身を変革しようとして出てきた考え方と行動である。
 今や右とか左とか保守とか革新とか言っている場合ではなく、地球と人類に明るい未来を確保するために近代文明を内部から乗り越え、変革して自分たちで21世紀らしい新しい世界を作ろうという大変積極的な考え方と行動であると、藤原氏は説明している。最近の動きで見ると、今まで地球環境問題に非常に消極的だった米国の保守派の人たちがこの問題に真剣に取り組み、地球を壊すようなエネルギー開発とかエネルギー消費を止めようという方向にあるし、中国でも二酸化炭素削減に向けた取り組みを始めようとしている。
 日本で言えば里山の復興や祭りの再生、地域の振興や自然農、有機農業の普及もそうであるし、エネルギーの地産地消、自然エネルギーの利用拡大、地元の材木を使った家の建設なども挙げられる。終戦後の焦土化した日本を復興させてきた昭和二〇年代や三〇年代は、「今だけ、カネだけ、自分だけ」の3だけ主義の人々が少なかった筈だし、政治家や経済人ならばなおさらのことである。でなければ戦後復興はなかったし、現在の日本もなかった。
 最近の欧州中央銀行は一兆ユーロを供給すると発表したように、世界はどれほど深刻な非常事態が広がっているかがわかるだろう。それだけに「現在の世界的大恐慌」と「今だけ、カネだけ、自分だけ」の出口は、実は我々の足元にあるという認識をまず持つことだろうという。それは次第に世界的な合意になりつつあり、近代文明の内部批判から生まれて経済の哲学を変え、それが政治も社会全体も変えていく非常に大きな力を持った動きだと、藤原直哉氏は話している。
 結論から言うと、一人一人が健康と持続可能性を考えたライフスタイルの構築を進めていくことが大切だし、業界も企業もそういう人たちに受け入れられる仕事をし、同時にそれを支援するための衣食住やさまざまなサービス、モノづくりのなかに今後の本格的な仕事の柱があると考えて行動することが大切だ。それがこの危機を乗り越えて本格的な21世紀社会を作るための戦略と語っている。