飲食産業新聞

郷土料理のブラッシュアップを

伝統料理に胡座をかくのでは…

2015.09.14

 信州の郷土料理は、五平餅、ひんのべ、にらせんべい、おやき、こねつけ、すんき漬け、鯉のうま煮等が代表的な料理だろう。これから始まる秋の催事やイベントで一番よく売れるのが「おやき」である。その起源は縄文時代まで遡ると言われている。
 首都圏や関西圏でのイベントでも「おやき」は、ここ20年間よく売れる商品に成長している。このおやきも各地域によってそれぞれ作り方が違う。概ねは小麦粉、蕎麦粉などを水で溶いて練り、薄く延ばした皮に餡や野菜等を包んで蒸したり、焼いたりしたものをいう。初めての方には、おまんじゅうのような、焼きもちのようなもので、健康的にもグッドフードと説明している。
 雪の多い信州では、かつて稲作の収穫量がなかなか伸びず、お米の代わりとして蕎麦や小麦粉が栽培されて来た。お蕎麦とともに小麦粉のおやきも毎日の食事や「おやつ」として家庭で作られ、信州独自のいわゆる「粉もの」食文化が育まれて来た。
 昭和30年代の信州各地の田圃は麦と稲の二毛作が盛んで、小麦粉の消費量が日本一になったこともある。「おやき」を始め麺類や精進揚げ(野菜のてんぷら)が食卓を賑わし、「粉もの」文化を確かなものにしていた。ご承知のように今日では「おやき」は善光寺平を中心に、東信、中信にまで拡がりを見せ、県外にもファンが増えている。
 盂蘭盆入りやお盆にお供えとして「丸なすのおやき」が使われ、また二十三夜様(蚕の神様のお祭り)や地蔵盆(子供の無病息災を願う)などでも欠かせないものだ。このように「おやき」は仏事や神事にまで使われ、モノとして昇華している。ある方々はおやき作りを「おやきを丸める魔法の手」「手の知恵づかい」などと褒め称えている。個人的にも丸なすを蒸したおやきが大好きで、また〝おふくろの味〟でもある。
 最近ではこの「おやき」も作るものから買うものに変わりつつある。それだけおやき製造者らの商品造りや販売努力が消費喚起を煽っているのだろう。家庭で作られていた「おやつ」や「供物」を商品化して来た関係者は「してやったり…」とその奏功を喜んでおられよう。しかし、お膝元の長野市を中心に北信エリアの子供達が、この伝統的な郷土食品の「おやき」を食べなくなってきていることを懸念している。
 この要因は核家族化で伝統が継承されなくなってきたことやおやつの多様化、またファーストフードなど外食店の発達、更にスーパーやコンビニの料理品小売り売場の充実等があげられる。ここ数年地元でのおやきの消費や郷土産品の減少は既に現れている。後10年もすれば「あの時こうすればよかった」という話になる。
 ここに興味深い、悔しい歴史の事実がある。岩波書店の広辞苑に「おしな」という意味が解説されている。それは「おしなの(御信濃) 」の略。江戸に出稼ぎに来た信州人を卑しめていった語。多く冬の農閑期に来、力業に従い、大飯(おおめし)をくったという。転じて、江戸東京の出稼者を総称し、また田舎者の意にも用いた。しなのもの」。今となっては隠語であろうが、ここに信州の食文化の真実が語られていよう。
 くだんに信州の郷土料理として「おやき」や「すんき漬け」など数点を挙げたが、所や人が変われば、商品性やお味の評価は高くないかも知れない。おやきを例にしての一つの危機感を訴え、伝統料理に胡座をかくのではなく、商品のブラッシュアップを提案している次第だ。関係者の皆さんは「おしな」の意味も含めてどう思っているのだろう。
 ここに掲載している写真は、県外から来たお客様が参加している「おやき道場」、そして来年始まるNHKの大河ドラマ「真田丸」(作•三谷幸喜)を期待して、こねつけをブラッシュアップした「真田丸」である。
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