2017.02.05(月)

フリーライドスキー・スノーボードイベント

「Freeride Hakuba」 日本初開催を目指す

白馬村の挑戦(白馬村観光局)

  長野県白馬村は、フリーライドスキー•・スノーボードの世界最高峰の大会である「Freeride World Tour Hakuba, Japan 2018(以下FWT Hakuba, Japan 2018)」、その予選大会となる「FWQ Freeride Hakuba 3*」、フリーライドレッスンの講習会「FWTアカデミーインストラクター講習会」などを含むイベント「Freeride Hakuba」を1月16日(火)~27(土)まで開催し、メイン大会となるFWT Hakuba,Japan 2018は安全面を考慮し、開催を見送ったものの無事に終了した。
【約2週間に及ぶ連日の斜面チェックを経て『安全第一』で最高位大会FWTの開催は見送り】
  昨年にフリーライドスキー・スノーボードの世界最高峰の大会であるFreeride World Tour(以下 FWT)の会場としてアジアで初めて選出され、その予選大会を開催し、今回は昨年度の斜面•積雪状況や日本人選手のレベルが認められ、予選大会ではなくワールドツアー全5戦の開幕戦として、「FWT Hakuba, Japan 2018」が1月20日~27日に日本初開催されることになっていた。
  しかし、積雪量は充分だったものの20日(土)の開催は直前の降雨による雪不足で延期。23日(火)は深夜2時頃にガイドチームが大会使用斜面を確認すべく入山し、一度は大会開催を決定し、出場選手もスタートゲートで待機していたが、スタート直前に霧がかかり、選手の安全とミスジャッジが起こる可能性から再延期を決定した。
  そして、ウェイティングの最終日となる27日の開催に向けて、日々準備を進めていたものの、安定した雪が付きかけた斜面に前日26日に非常に強い風が当たり、雪が吹き飛んで所々氷が露出した。選手が安全に滑走出来る斜面が無くなり、白馬村アルパインエリアでの開催は見送ることになった。他の国の大会に場所を移して実施する。現在開催期間中のカナダ大会、その後のアンドラ、オーストリアの何れかの場所にステージを移して、名称はそのまま「FWT Hakuba」として開催される。この「開催見送り」という決定は「安全第一」「安全啓発」という理念をとことん追求し体現するものになったと思われる。
 
■FWT(スイス)代表のニコラ•ハレウッズCEO
  「”セーフティー・ファースト”を掲げているFWTにおいて、選手の安全は他の何よりも優先される。今回のように山のコンディションが安全でないと判断されたとき、イベントを実施しないという決断を下さなくてはいけない事がある。実はFWTの20年の歴史の中で、過去にも数回経験している。
  FWTチームは準備期間を含め2週間白馬に滞在し、1/18のFWQ(日本人予選大会)、1/20のエキシビジョン、FWT(本戦)の準備などを通じ、地元の実行委員会の皆様との連携は非常に強固なものとなった。改めて地元の皆さま、そして内外のボランティアスタッフに御礼申し上げます。来年また白馬に戻ってきて、大会を開催することを今から心待ちにしています」
Nicolas Hale-Woods, FWT Manegement S.A. CEO.
 
■太田文敏:大会実行委員長(白馬村副村長)
  「大会実行委員会では、安全を最優先し、イベントを実施しないとしたFWTの決断を非常に重く受け止め、判断を尊重したいと思います。来年はFWTを白馬で開催出来ることを信じていますし、FWTの選手たちが白馬の斜面を滑走する姿を通じて、最大限に白馬の魅力を世界に発信出来ることと信じています」太田文敏、FWT Hakuba 2018実行委員会 委員長
 
【“JAPOW”が存在する白馬村で中止を決定することの意味】
  世界中のスキーヤー•スノーボーダーから、日本の良質のパウダースノーは“JAPOW”(ジャパウ・Japan+Powder Snowを略した造語)とも呼ばれている。白馬村は世界から“JAPOW”を体感できるエリアとして認められ、大会を主管するFWT Manegement S.A.からもその雪質と豊富な積雪量、地形、大会斜面へのアクセスなどが評価されて大会の開催場所として選ばれた。
  一方でその雪質と積雪量は安全面への配慮に大きくに関わる。この大会では、雪が降り始めた12月からの積雪状況を地元の山岳ガイド(バックカントリーガイド)が毎日のように山の状況を情報共有。大会1週間前からは地元ガイドと大会を主管するFWTガイドによるセキュリティチームが連日山に入り、複数の候補斜面における積雪状況と天候のチェックを毎日欠かさずに行い安全対策を議論することで成り立っている。
  また、大会予定日前の数日間は、斜面の雪を守り安定させるために斜面上部にロープを張り、ガイドやボランティアスタッフが雨の日も風雪の日も斜面に立ち入らないよう協力を求めて立ち続けた。
  出場選手に対しての安全セミナー実施も、この大会が「安全」を徹底していることの一つだ。今回のFWT Hakuba, Japan 2018に出場している選手は、フリーライドの世界大会を転戦していて滑走技術はもちろん、あたり前に雪崩をはじめとする雪山に対する知識を十分に持っている。しかし、大会側はそのような選手にさえ、雪崩ビーコンの使い方や埋まった人を掘り出す練習などを欠かさずに実施している。
  数週間にわたる大会予定斜面の視察と徹底した安全知識の啓発と実践がありながら、「開催見送り」の判断をすることは、この大会が『安全』を最も重要であると認識している様を体現した判断であり、「20年間で大きな事故を一度も起こしていない大会」であることの所以であると思われる。



1/20FWT選手フェイスチェックと1/19FWT選手安全講習会
photo by freerideworldtour.com/JEREMY BERNARD


 
【白馬村がFWT開催を日本ではじめて行う意義】
  およそ100年前、白馬村に初めてスキーが伝来。学校の先生が裏山で始めたスキーが登山案内人の足となりスキーの歴史となっている。それからリフト•ゴンドラが架けられ、スキー場がオープン、多くの愛好家が訪れるようになり、1998年には長野オリンピックスキー種目の主要会場ともなった。近年では海外からも沢山の旅行者がこの雄大な白馬連峰でスキー、スノーボードを満喫している。
  それぞれの時代において白馬は常に日本のウィンタースポーツシーンのトップリーダーであり続けた。日本のウィンタースポーツシーンをリードしてきた白馬を世界一流の山岳リゾートへと進化させるために、またバックカントリーと呼ばれる山岳エリアで楽しむスキー•スノーボードの安全啓蒙をこの地から発信するために、3年という月日と様々なサポートを受けてこのイベントを実施している。
  そのパートナーとして、下記2つの目的を今後も追及していくためにフリーライド界で最も権威のある大会を運営をしており、欧州や北米を中心に実績があり、過去20年間で重大事故を起こしていないFWTとタッグを組んでいる。
①白馬が「世界水準の雪質とスキー場を有したウィンターリゾートである」という認知をこの大会を通じて世界中に拡大すること②欧州の最先端の雪山管理の技術や自然環境保全技術を取り入れ、バックカントリースキー・スノーボードの安全啓蒙の促進に取り組む。
  一つ目の世界水準のウィンターリゾートとしての認知拡大については、FWT Hakuba, Japan2018が白馬で開催できなかったことは残念ではあるが、予選大会やエキシビジョン滑走、または”JAPOW”を堪能するトップ選手たちの撮影した映像を含め、多くの動画が SNS などを通じて世界中へ発信され、”HAKUBA”の名前が特に欧米を中心とした世界中に広がったことは、この大会を誘致した大きな成果と確信している。
  FWT公式アカウントで白馬関連の投稿は50以上あり、その中に10万ビュー超える動画もあった。また、FWTのFacebookアカウントのフォロワー数が今年に入ってから36%増加、FWTウェブサイトの日本人訪問者数が国別で2位となるなど、日本国内におけるフリーライドファン層の拡大にも繋がった。
  二つ目の最先端技術を取り入れた環境保全とバックカントリーの安全啓蒙促進に関しても一定の成果があったと考えている。イベント期間中の25日(木)に、将来的にスキー場をベースとしたスキースクールがバックカントリーやフリーライドのスクールプログラムを提供することができるようになることを目指し、インストラクター向けにフリーライドレッスンの講習会「FWTアカデミーインストラクター講習会」が開催された。
  この講習会は最先端のノウハウを持ち、既にヨーロッパで19のスキーリゾートと提携しているFWTからインストラクターを招聘し開催。参加者はエヴァーグリーン・アウトドアセンター・スキースクール、さらに県外から新潟県の舞子スノースクール校長などが、ゲレンデで雪崩ビーコンの使用方法や目視による滑走斜面の安全性の判断の仕方、レスキューの基礎を学び、室内ではフリーライドの哲学について学んだ。
  また、関係者向け(12/22)、一般者向け(1/30)のバックカントリーの安全啓蒙講習会を開催すると共に、昨年の八方尾根及び五竜の登山口へのビーコン(無線電波発信機)チェッカー設置に加え、今年は注意喚起看板と雪崩危険度を表す看板をスキー場の協力を得て設置した。今後も安全啓蒙活動を積み重ねることにより、関係者のみならず地域住民を含めてバックカントリーに対する理解を深め、スキー場や山岳エリアなど利用者の趣向にあったスキー•スノーボードの楽しみ方を選べるスノーリゾート「Hakuba Valley」を目指す。
 
1/25FWTアカデミー開催の様子




登山口に設置されたビーコンチェッカー、注意喚起看板他
 
【FWTは未開催ながらも日本人選手の力を見せつけたFWQ Freeride Hakuba 3*(日本人選手予選)】
  FWT Hakuba, Japan 2018への出場権をかけた日本人選手選考会となる「FWQ Freeride Hakuba 3*」は1月18日(木)に開催された。FWTの国際予選リーグを転戦している世界各国からのスキーヤー•スノーボーダー26人と今回特別に設けられた日本人選手選考会枠の56名、計82人が出場。大会数日前の雨により積雪状況も心配されたが、連日の積雪•斜面状況の確認と早朝の最終チェックにより、予定よりも標高を下げた位置をスタート地点とし、標高差約300m、最大斜度42°の白馬アルパインエリアの北北東斜面を使って実施された。
  当日夕方にアルプス広場(白馬村八方地区)で行われた表彰式において、男女スキー・スノーボード4種の各カテゴリー上位3名を発表。4種目中3種目で日本人選手が優勝し、その3名がFWT Hakuba, Japan2018への出場権を獲得した。
  男子スキーで優勝した佐々木悠選手は、インタビューで「ワールドツアーは夢だったので、めちゃくちゃ興奮してます」とコメント。男子スノーボードで優勝した佐藤太一選手は「すごく嬉しいですけど、今でも信じられないです。興奮してます」、女子スノーボードで優勝した浜和加奈選手は「オリンピック出場の夢はかなわなかったけど、FWTに出場できて嬉しい」と喜びを語った。
 


1/18 ワイルドカードでFWT Hakuba出場を決めた3名(左から佐藤太一、浜和加奈、佐々木悠)、及び大会当日の滑走 photo by freerideworldtour.com/JEREMY BERNARD
 
【初回延期を受けて開催した開催予定斜面を使ったトップライダーによるエキシビジョン滑走】
  天候•積雪などの条件によりFWT Hakuba,Japan2018が延期された1月20日(土)。青空が広がる天気の良い一日で、観戦を楽しみにしていた多くの観客のために、FWTのトップライダー5名やフリーライド界の世界的トップスノーボーダーであるトラビス•ライス氏に交じり、FWT Hakuba, Japan2018出場予定日本人ライダーの楠泰輔氏、佐々木悠氏、佐藤太一氏の計9名が大会で使用する予定だった大斜面をエキシビジョン滑走した。粉雪を巻き上げての豪快なターンや地形を使ってジャンプをすると歓声は一段と大きくなり駆けつけた約300人の観客を魅了した。


1/20エキシビジョン滑走 photo by freerideworldtour.com/JEREMY BERNARD
 
【開催に必要不可欠なサポート企業・地元・県内外のボランティアのサポートを受けて】
  このイベントは、FWT Manegement S.A.と白馬村の関係者で作るFWT Hakuba2018実行委員会が中心となって運営しているが、サポート企業、地元を含む県内外のボランティアのサポートがあって成り立っている。特にKDDI(株)とPeakPerformanceは、サポート企業として大会に欠かせない役割を担っていた。
  KDDI㈱は、①大会ライブ中継のための通信環境提供、②FWT選手の滑降が体感出来るVRブースの設置、③SPORTS BULL、J SPORTSでの大会情報発信、④FWTグッズの当たるプレゼントキャンペーンなどを実施した。特に通信環境提供では、山奥で開催される今大会をライブ中継するために必要な取り組みでした。自然災害発生時などに被災地における迅速なエリア復旧を行い、携帯電話による通話やデータ通信のサービスを利用可能とするために保有している「車載型基地局」を大会期間中に白馬村に派遣し、FWTのライブ中継チームが厳冬期の北アルプスでもスムーズに中継映像を配信できるよう通信環境を確保。また、白馬八方尾根スキー場2Fレストラン「イエティ」内に設置されたVRブースでは、一人ずつ楽しむゴーグル型と4人程が同時に360°CVR映像を見られるドーム型が展示され、FWTライダーが実際に滑走して撮影した映像で、トップ選手の視界やスピード感を体感でるブースを設置し、多くのお客さまにフリーライドの熱狂を提供していた。
■繁田光平:KDDI(株)
  「この度FWT HAKUBA 2018に協賛できること大変嬉しく思っております。KDDIはFWTの大会コンセプトに共感し、本大会におけるライブ中継の安定配信を目的とした通信面のサポート、選手目線のVR滑走コンテンツを配信することで通信をはじめとした最新のテクノロジーによって大会をサポートし、より多くのお客様にフリーライドスキーの魅力をお伝えしたいと考えております」
繁田光平, KDDI株式会社 ビジネス統括部長

車載型基地局と八方尾根スキー場に設置されたVRブース
  スノーウェアメーカーのPeakPerformanceは、過去のFWT映像などを見られる特設モニターブースをVRブースの隣に設置するとともに、開会式や表彰式の会場となったアルプス広場(白馬村八方地区)にも特設大型スクリーンを設置し映像を加えてセレモニーを盛り上げた。

セレモニー会場スクリーンと八方尾根スキー場に設置された特設モニター
 
  八方尾根スキー場をはじめとする地元事業者も様々な形で大会に協力。スキー場内だけでなくゴール付近まで圧雪車を使った道の確保と物資輸送はスキー場の協力のもとに行われた。シーズン一番の繁忙期に、延泊対応などフレキシブルに対応を行った宿泊関係、貸切でパーティー運営を担った飲食店、パブリックビューイングとして一般開放をした各店舗、またポスター掲示やお客様へ周知を数多くの施設が行うなど、地域が一体となってこの大会を後押しした。
  さらに、雪山では人海戦術になる大会準備と片付けの物資搬送・選手受付・大会に関するスキー場での誘導・通訳・セレモニーの盛り上げなど多岐にわたり大会を支えたのは、総勢40名を超える県内外から集まったボランティアスタッフでした。大会日も直前に決まるため、物資搬送日や場所が前日に決まるという中でも、臨機応変にボランティアに参加、滞りなく大会実施の準備が行なわれた。
  ボランティアスタッフは、白馬村観光局HPでの募集に応募した方•FWQの日本人予選に参加した選手•白馬村と連携協定を結んでいるヤフー(株)等から多くのボランティアが参加。また、同社は大会本部になった施設「ヤフー白馬ベース」の無償提供も行った。

ボランティアとFWTスタッフ(片付け後)とボランティアによる雪上での物資搬送 photo by Yuma Hamayoshi
 
【白馬村友好都市レッヒ村(オーストリア)出身ロレーヌ•フーバー選手の激励会】
  白馬村の友好都市であるオーストリアのレッヒ村(オーストリア)出身で女子スキー種目のロレーヌ•フーバー選手が、FWT Hakuba,Japan2018に昨年の種目別年間ランキング1位として出場するため、その応援にレッヒ観光局長ヘルマン•フェルヒャー氏が白馬村へ来村し、フーバー選手の激励と両村の友好を深める食事会を村長を含む村関係者と25日(木)に白馬村内で行った。
■ロレーヌ・フーバー:2017スキー女子年間ランキング1位
  「白馬も日本も来るのは初めてだけど、白馬は真のマウンテンビレッジで、とても歓迎してくれいているし、フレンドリーで、人々を尊重しているのがわかる。山も最高で、森林もツリーランも…特にアルパインエリアのランは最高!文化も食事も素晴らしいく、白馬はすごいところだです!大会は何よりもリラックスして楽しんでいるし、その瞬間(ライディングする)を大切にしています。楽しんで良い滑りをしたいし、学んで、そして友達と一緒に盛り上げていきたい」Lorraine Huber

1/25村関係者との会食(左から4人目がフーバー選手)