安全・簡便な畑土壌中リン酸の現場型評価法に基づく
施設キュウリ栽培でのリン酸減肥マニュアルの公開に

14.03.20(木)

 今回の公開のポイントは、農業現場で利用できる安全で簡便な畑土壌中リン酸の測定法を開発し、施設キュウリ栽培を対象としたリン酸肥料を削減する指標を策定している。測定法の詳細や施設キュウリ栽培でリン酸肥料削減にこの測定法を応用する方法などを解説したマニュアルを作成し公開した。
 農研機構は農業現場で利用できる畑土壌中リン酸の測定法を開発した。新たに開発した測定法では、土壌中のリン酸の抽出から分析まで全工程にわたって安全、簡単、低コストに実施できる 。
 リン酸施肥量が多く、土壌中にリン酸が多量に蓄積している例が多い施設キュウリを対象とした現地の実態調査、並びに試験場内外でのリン酸施肥量を減らした減肥試験により、この測定法を用いた場合のリン酸減肥の可否を判定する指標を策定した。
 新たに開発した測定法ならびにリン酸減肥指標について、その背景や経緯などを含めて「安全・簡便な畑土壌中リン酸の現場型評価法に基づく施設キュウリ栽培でのリン酸減肥マニュアル」で紹介している。
 このリン酸測定法の分析費用は、畑土壌1検体当たり120円程度と計算している。また、策定した減肥指針を適用して、冬春キュウリの主要産地の施肥基準から試算すると、施肥コストのうち約3割(約1.6万円/ 10a)が節減可能と考えられる。
 マニュアルは以下のHPからダウンロードして利用できる。また、印刷した冊子は施設キュウリの主要産県の普及担当部署等に配布する。
LinkIconhttp://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/narc/049971.html
 予算:農林水産省委託プロジェクト「地域内資源を循環利用する省資源型農業確立のための研究開発2系(平成23年度からは、気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のためのプロジェクトB2系)」(平成21~25年度)

 開発の社会的背景と研究の経緯は、平成20年の肥料価格の高騰は記憶に新しく、適正施肥があらためて重要となっている。なかでも土壌中に蓄積しやすいリン酸は、これまでの施肥来歴次第では、さらなる施肥による養分補給の必要性が乏しいほどに蓄積している場合もある。
 土壌養分の状態を把握し施肥に反映させるには、農業現場で即座に診断結果が得られれば理想的だ。しかし、現在汎用されている畑土壌中の可給態リン酸測定法は、強酸を含む抽出液を用い振とう機を使って土壌からリン酸を抽出し、強酸や重金属を含む試薬を用いた化学反応を行ってから機器分析を行うもので、設備のない農業現場では実施不可能である。
 そこで、こうした問題がなく、実験設備のない農業現場でも実施可能な新手法の確立をめざし、群馬・神奈川・高知の各県の農業技術センターと協力して、試験を実施して来た。この度、土壌からリン酸を抽出してからそれを分析するまでの全工程にわたって、安全、簡単、低コストに定量できる土壌中水溶性リン酸の測定法を開発した(図1)。

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図1 現状のリン酸の土壌診断法と新たな現場型評価法の概要・特徴

また、リン酸施肥量が多く、土壌中に大量のリン酸が蓄積している例が多い施設キュウリを対象として各地の試験場内外でリン酸減肥試験を実施し、この新手法を用いた場合のリン酸減肥の可否を判定するため指標を策定した。このマニュアル(図2)では、この新手法並びにリン酸減肥指標について、その背景や経緯などを含めて紹介している。

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 この研究の内容・意義は、土壌診断の流れを簡単にご紹介すると、
1.土壌から目的成分をとりだし(抽出)2目的成分量を化学反応によって測定し(分析)3得られた測定値を指標と照らし合わせ、施肥の参考とするというものです。これらの各々について新たに現場向けの方法を開発した。1.振とうを行わない水抽出法の開発農業現場での利用のためには、安全な抽出剤がのぞましく、また、振とう機といった実験機器の利用は避けたいところです。そこで、振とうを行わない水抽出法(不振とう水抽出法)を検討し、底面積の広い容器を用いて、土壌が薄い層になるようにして抽出すれば、振とうを行わなくても、連続的に振とうした場合と同様に水溶性リン酸が抽出される(図3)。抽出に用いる水の量を少なめにすれば、抽出時間や温度の影響を受けにくくなるといった特徴を明らかにし、現場での利用に便利な抽出条件を設定した。

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図3 不振とう水抽出法における土層厚がリン酸抽出経過へ及ぼす影響

2. 水抽出液中のリン酸の現場型分析法
 土壌分析の現場利用に向けた安全性の確保にあたり、抽出段階での抽出剤のみでなく、分析段階の試薬についても考慮する必要がある。従来の分析法(モリブデン青法)では濃厚な硫酸やアンチモンを含有する混合薬品を用いており、劇物としての扱いが必要となる。そこで、市販の毒劇物フリーのリン酸簡易測定キット(以下、酵素法)の利用を検討し、不振とう水抽出リン酸は、酵素法でもモリブデン青法と同様に評価できる(図4)。反応時間の延長などにより、モリブデン青法よりも広範囲の測定ができる。市販の簡易吸光度計を用いて簡単に数値化できるといった特徴を明らかにし、現場での利用に便利な分析条件を設定した。

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図4 酵素法とモリブデン青法(従来法)で評価した不振とう水抽出リン酸

3. 現場型評価法におけるリン酸減肥指標
 群馬・神奈川・高知の各県の農業研究センターでは、場内や現地圃場においてリン酸減肥を行った場合と行わなかった場合とで施設キュウリの収量などを比較して来た。施設キュウリはリン酸施肥量が多い一方、吸収量も極めて多いため、減肥による減収の可能性も懸念されたが、統計的に明瞭な減収は認められなかった。しかし、不振とう水抽出法で 1.00 mgリン酸 / 100g 風乾細土を下回る場合はリン酸減肥処理区の収穫量が若干少なくなる例がやや多かった(図5)こと、これ以上の値の土壌での栽培試験では基肥無リン酸栽培が可能であったことから、これを基肥リン酸省略の可否の判定指標とした。群馬・神奈川・高知の現地実態調査によれば、上記の指標値を上回っている圃場が全体の92%にのぼっており(図6)、リン酸減肥が可能な場面は広範に想定される。

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図5 施設キュウリのリン酸減肥試験において対照区よりも収量が少なかった試験例の割合

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図6 施設キュウリ現地圃場の水溶性リン酸の相対度数の分布

 今後の期待は、冬春キュウリの主要産地の施肥基準から試算すると、施肥コストのうち約3割(約1.6万円/ 10a)が節減可能と考えられる。今後は講習会等を活用して本技術の普及を図りながら、マニュアルの内容を充実させる予定である。。
この件に関するお問い合わせ先は、農研機構中央農業総合研究センター 企画管理部情報広報課課長補佐 根本康夫まで(電話029-838-8421、FAX029-838-8858)。