2018.11.01(木)

(研究成果)茎葉収量の高いイネWCS用品種「つきことか」

「たちすずか」より2~3割茎葉収量が高く、晩植栽培にも

適する(農研機構)

   農研機構は、イネ発酵粗飼料(WCS1))用の新品種「つきことか」を育成した。茎葉収量がWCS用従来品種の「たちすずか2)」より2~3割高く、また晩植栽培でも籾(もみ)の割合が増えず茎葉部を多く収穫できるのが特長だ。「たちすずか」と同様に糖含有率3)が高く、良質なWCSが生産できる。「たちすずか」や「つきすずか4)」と組み合わせて作付けすることで、移植や収穫作業の分散や良質な飼料の増産が図れる。
<概要>
   牛の飼料として用いられるイネWCSは、水田を有効活用できるイネの利用法として注目されている。通常のイネは、牛にとって消化性が悪い籾の割合が多く、またサイレージ調製に必要な糖の含有率が低いことが問題でした。そこで農研機構は2010年に穂に比べて茎葉の割合がきわめて大きく、糖含有率が高いWCS用品種として「たちすずか」を育成し、さらに2016年には「たちすずか」に縞葉枯病5)抵抗性を付与した「つきすずか」を育成した。
   両品種はイネWCS用品種として関東以西の広い地域で普及が進んでいる。一方、生産現場からは「たちすずか」よりさらに茎葉収量が高く、また、麦の後作や作業分散を目的とした晩植の場合に「たちすずか」で発生する籾の割合が増えるという問題を解決する新品種を望む声が挙がっていた。
   今回、育成した「つきことか」は茎葉収量が「たちすずか」より2~3割高く、晩植栽培でも籾の割合が増えない点が特長。糖含有率は16%程度と「たちすずか」同様に高く、良質のイネWCSが生産できる。とくに晩植栽培での籾割合の増大が問題となる、暖地•温暖地の稲麦二毛作地帯への普及を見込んでいる。「たちすずか」又は「つきすずか」と組み合わせて作付けすることで、移植期の拡大と収穫作業が分散でき、良質な飼料の増産が図れる。
<関連情報>
   予算:農林水産省委託プロジェクト研究「飼料用米の収量を高位安定化させる生産技術等の開発」運営費交付金
品種登録出願番号:第33004号(平成30年4月5日出願、8月14日出願公表)
お問い合わせ
研究推進責任者  農研機構•西日本農業研究センター 所長 水町功子
研究担当者        同水田作研究領域 水稲育種グループ主任研究員 中込弘二
広報担当者        同企画部 産学連携室広報チーム長 菅本清春(電話084-923-5385 FAX084-923-5215  プレス用e-mail:toybox@ml.affrc.go.jp)
 
<詳細情報>
新品種育成の背景・経緯
   イネWCSは水田を有効活用できるイネの利用法として注目されている。しかしイネの籾は牛の消化性が悪く、未消化のまま排泄される割合が高いため、栄養の損失が問題になっていた。また、サイレージ調製には乳酸菌のエネルギー源となる糖が必要だが、籾を多く着ける従来品種ではイネの糖含有率が低いことも問題となっていた。
   農研機構は2010年に、牛にとって消化の良い茎葉の割合が高い品種「たちすずか」を育成し、さらに2016年には「たちすずか」に縞葉枯病の抵抗性を付与した「つきすずか」を育成した。糖含有率も高く発酵性が優れ、良質のイネWCSが生産できることから、イネWCS用品種として関東以西の広い地域で普及が進んでいる。
   一方で、生産現場からは「たちすずか」より高い茎葉収量を望む声が挙がっている。また、「たちすずか」では麦後栽培や作業分散を目的とする晩植で、消化性が劣る籾の割合が増える問題があった。そこで今回「たちすずか」の優れた特性を保ちながら、さらに茎葉収量が高く、晩植栽培でも籾の割合が少ない「つきことか」を育成した。品種の名前の由来
 
新品種「つきことか」の特徴
<来歴>「ホシアオバ」に由来する極短穂突然変異体系統「05多予II-15」と地上部乾物重が多収の「中国飼189号」を交配して育成した品種。
<主な特徴>
1.「つきことか」は普通期移植栽培での地上部乾物重は2,125kg/10aで、「たちすずか」より19%多収だ。全体に占める籾の重さの割合(籾重割合:従来型の品種「タチアオバ」は35~40%程度)は「たちすずか」の7.9%に対して1.6%と少なく、消化性が優れる茎葉部乾物重は27%多収(表1、図1)。
2. 糖含有率は15.6%であり、「たちすずか」の17.0%と同様に高く、良好な発酵が期待できます(図1)
3. 晩植栽培では籾重割合が「たちすずか」の16.0%に対して2.5%と少なく、茎葉部乾物重は「たちすずか」より22%多収です(表1、図1)。
<その他の特徴及び栽培上の留意点>

  1. 育成地である瀬戸内沿岸部での出穂期は9月23日頃で「たちすずか」より3週間程度遅く出穂する(表1)。出穂特性の日長反応性程度は「たちすずか」と同様に強く、移植時期が変動しても、出穂期の変動は小さく、育成地では9月下旬から10月初めに出穂する。
  2. 稈長は138cm程度と「たちすずか」より20cm近く長い極長稈で、穂長は「たちすずか」よりやや短い草型をしている(表1、写真1、2)
  3. 縞葉枯病に抵抗性で、縞葉枯病が発生しやすい地域でも栽培できます(表2)。
  4. 極長稈で倒伏リスクが高いので、疎植栽培や中干しなどを行い倒伏リスクの低減に努める必要がある。
  5. 葉いもち病抵抗性が弱いので、常発地帯での栽培は避け、防除を励行する必要がある。

品種の名前の由来
   「つきすずか」と同様に縞葉枯病抵抗性が付いていること、9月下旬から10月にかけて出穂することから、"ここのつ-とお"の頭文字を取り命名した。
今後の予定・•期待
   「つきことか」は、晩植栽培で「たちすずか」の籾重割合が増えてしまう暖地•温暖地における稲麦二毛作地帯への普及が見込まれる。また「たちすずか」または「つきすずか」と組み合わせて作付けすることで、移植時期の拡大や収穫作業の分散ができ、良質な飼料の増産が図れる。トウモロコシのような長稈作物に対応した収穫機を保有する法人等での規模拡大や収益向上が期待できます。
   11月8日(木曜日)~11月9日(金曜日)に三重県鈴鹿市で行われる平成30年度「高品質・低コストのイネホールクロップサイレージ生産体系」に関する現地検討会において、本品種の紹介を行う。詳しくは以下URLをご覧下さい。http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2018/08/082285.html
種子入手先に関するお問い合わせ先
農研機構西日本研究センター 企画部 産学連携室 産学連携チーム(電話084-923-4107  FAX084-923-5215)
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構本部 連携広報部 知的財産課 種苗チーム(電話029-838-7390  FAX029-838-8905)。<用語の解説>
1)WCS(ホールクロップ・サイレージ)
   子実だけではなく茎や葉も一緒に収穫し、乳酸菌などで発酵させた牛用の飼料。
2)たちすずか
   穂が小さく、茎葉に比べて籾の割合が極めて小さいイネWCS用の品種。重心が低く、茎が固く強いため倒伏にとても強い品種。飼料特性として糖含有率が高く発酵性に優れるとともに、繊維の消化性に優れ、TDN(用語の解説6参照)収量も高い特長がある。イネWCS用品種として関東以西の広い地域で普及が進んでいる。
3)糖含有率
   ブドウ糖、果糖、ショ糖の含有率の合計値。糖は乳酸発酵の基質となる。サイレージ調製においては、糖含有率が高いほど発酵性が良くなる。
4)つきすずか
   「たちすずか」の長所を引き継ぎ、欠点である縞葉枯抵抗性を改良した品種。稲麦二毛作地帯などの縞葉枯病が発生しやすい地域でも作付けが可能だ。
5)(イネ)縞葉枯病
   イネ縞葉枯ウイルスによって引き起こされる病害。ヒメトビウンカによって媒介される。多発すると収量の減少につながり、ウイルスを保有したヒメトビウンカが増加して地域の稲作へも影響する。ヒメトビウンカは麦類を好むので稲麦二毛作地帯で発生が多い傾向があり、近年は全国的に増加傾向にある。
6)TDN(可消化養分総量)
   飼料に含まれる栄養のうち、牛等の家畜により消化•吸収される養分の割合または総量を示す。正確な数値を得るには給与試験を行う必要があるが、飼料成分の組成からも推定できるようにいくつかの計算式が作られている。
 
 
 
参考図