2019.12.04(水)

倒伏しにくく暑さに強い直播栽培向きの多収良食味水稲新品種

「しふくのみのり」ー東北地域向け、いもち病と縞葉枯病にも

強く業務用米に最適(農研機構)

   農研機構は東北地域向けに、倒伏しにくく暑さにも強い直播栽培向きの多収良食味水稲品種「しふくのみのり」を育成した。「ひとめぼれ」並の良食味で「ひとめぼれ」より 標肥直播栽培 1) で約1割、 多肥直播栽培 1) で約3割多収となる。またいもち病に強く、 縞葉枯病(しまはかれびょう) 2) に抵抗性を持つ。業務用米に適した品種として秋田県で200haの作付けが計画されている。
 
<概要>
   近年、調理された米を購入し家庭で食べる中食や外食向けの米(業務用米)の消費量は増加傾向にあり、低コストで栽培できる業務用米向け水稲品種の需要が高まっている。一方、温暖化の進行に伴い、東北地域でも登熟期間中の高温による玄米外観品質の低下が問題となってきている。農研機構はこれまでに、東北地域向けの業務用米に適した多収良食味水稲品種「萌えみのり」を育成し、作付けが拡がっている。しかし「萌えみのり」は、いもち病や暑さに弱いという問題があった。そこで今回、いもち病や暑さにも強い東北地域向けの業務用米に適した多収良食味水稲新品種「しふくのみのり」を育成した。
  「しふくのみのり」は「萌えみのり」並みに倒伏に強く、直播栽培向きで多収だ。育成地においての収量は標肥直播栽培で641kg/10a(「ひとめぼれ」より約1割多収)、多肥直播栽培で754kg/10a(「ひとめぼれ」より約3割多収)だ。炊飯米の食味は「ひとめぼれ」と同等の良食味である。これらの特長に加え、暑さ(登熟期間中の高温)に強く、いもち病と縞葉枯病にも強い品種だ。業務用米に適した品種として、秋田県で令和3年度に200haの作付けが計画されている。
<関連情報>
予算:  農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)」
品種登録出願番号:  第33837号(令和元年8月30日出願公表)
<お問い合わせ先など>
研究推進責任者 農研機構東北農業研究センター所長 湯川智行
研究担当者 同水田作研究領域 水稲育種グループ長 太田久稔
広報担当者 同地域戦略部研究推進室長 佐藤百合香
 
<詳細情報>
新品種育成の背景と経緯
   食生活の多様化により、家でご飯を炊いて食べる家庭内消費が減少傾向にある一方、調理された米を購入し家庭で食べる中食や外食向けの米(業務用米)の消費量は増加傾向にある。また、温暖化の進行に伴う登熟期間中の高温により米の品質が低下し、価格が低下することが問題となっている。業務用米には一定の品質•食味を保有し、価格の安い米が求められるため農業経営者の所得を確保するためには、一定水準の食味•品質を有し、栽培コストの削減、栽培の省力化に対応できる品種の要望が高まっている。農研機構はこれまでに、東北地域向けの業務用米に適した多収良食味水稲品種「萌えみのり」を育成し、作付けが拡がっている。しかし「萌えみのり」は、いもち病や暑さに弱いという問題があった。
   そこで農研機構では、いもち病に強く耐倒伏性・ 高温耐性 3) に優れ、縞葉枯病抵抗性で収量性が高く、良食味の特性を有する直播栽培向き水稲新品種「しふくのみのり」を育成した。
新品種「しふくのみのり」の特徴
①いもち病に強く、縞葉枯病に抵抗性で良質・良食味の「奥羽406号」を母とし、多収の「ふくひびき」を父として交配を行い、「しふくのみのり」を育成した。
②育成地(秋田県大仙市)での出穂期は「ひとめぼれ」より移植栽培で1日、直播栽培で3日程度早く「萌えみのり」と同程度だ。成熟期は「ひとめぼれ」「萌えみのり」と同程度( 表1 )だ。
③稈長は「ひとめぼれ」よりかなり短く、「萌えみのり」よりやや短い。耐倒伏性はかなり強く多肥直播栽培でも倒伏はほとんどない( 表1 写真1 写真2 )。
④育成地における多肥移植栽培、直播栽培(標肥、多肥)の精玄米重は、いずれも「ひとめぼれ」より多収( 表2 )。「ひとめぼれ」の標肥直播栽培と比較して、標肥直播栽培では641kg/10aで約1割、多肥直播栽培では754kg/10aで約3割多収となり、「萌えみのり」と同程度の多収である。⑤玄米千粒重は「ひとめぼれ」より1g程度重く、「萌えみのり」と同程度。玄米外観品質は「ひとめぼれ」と同程度かやや優れ、「萌えみのり」より優れる( 表2 写真3 )。
⑥高温耐性は「ひとめぼれ」「萌えみのり」よりも強く"やや強"だ。「ひとめぼれ」「萌えみのり」よりいもち病に強く、葉いもち•穂いもちともに"強"である。縞葉枯病に抵抗性で 白葉枯病 4) はやや強。耐冷性は中、穂発芽性はやや難( 表3 )。
⑦食味は「ひとめぼれ」「萌えみのり」と同程度( 図1 )。業務用米の用途として店内炊飯、おにぎり等に適している( 表4 )。
栽培適地と栽培上の留意点
   栽培適地は東北中部以南で、目安として「ひとめぼれ」の栽培地域に適している。なお、耐冷性が不十分のため、冷害の発生しやすい地帯では栽培を避ける必要がある。
品種の名前の由来
   おいしい米が沢山収穫できる喜びを表し、「至福の実り」をイメージして命名した。
今後の予定•期待
   令和3年度に秋田県で200haの作付けが計画されている。いもち病•縞葉枯病の発生や高温による白未熟粒の発生が問題となっている地域への普及が期待される。ご飯の食味が良く、店内炊飯おにぎり、弁当などの中食•外食への利用が期待できる。
原種苗入手先に関するお問い合わせ
   利用許諾契約を締結した法人が令和2年に種子生産を行い、種子の販売は令和2年以降に生産した種子になる。
利用許諾契約に関するお問い合わせ
   農研機構本部 知的財産部 知的財産課 種苗チーム(電話029-838-7390  FAX029-838-8905)
 
<用語の解説>
①標肥直播栽培、多肥直播栽培
   一般に肥料を多く施用すると、地上部全体が大きくなり、玄米の収量が多くなるが、草丈(稈長)が長くなるため倒れやすくなる。「ひとめぼれ」は肥料を多く施用すると倒れやすくなるため、標準的な量を施用(標肥直播栽培)する。 一方、「しふくのみのり」はかなり倒れにくいため直播栽培においても標準的な量より多い肥料を施用(多肥直播栽培)することが可能だ。

②縞葉枯病
   稲のウイルス病のひとつで、ヒメトビウンカによって媒介される。葉に黄緑色または黄白色の縞状の病斑があらわれ、生育が不良となりやがて枯死する。後期感染では黄緑色の条斑を生じ、穂が奇形となって十分に葉から出なくなる症状を示す。関東から東海地域を中心に発生が多くなっている病害だ。
③高温耐性
   水稲の玄米は出穂後の登熟期間に気温が著しく高くなると、背白粒、基白粒等の白未熟粒が多く発生し、玄米の外観品質が低下する。基準品種(「ひとめぼれ」等)と玄米外観品質を比較し、白未熟粒の発生が少ない品種は"強"、白未熟粒の発生が多い品種は"弱"と評価する。
④白葉枯病
   稲の細菌病のひとつで、冠水や強風雨によって感染の機会が増大し、発病が助長される。葉縁に沿って黄色、白色あるいは青みを帯びた灰緑色の病斑が現れ、基部方向に伸長していく。発病葉は先端から次第に枯れて灰白色となり、葉の枯死で稔実が害され、減収になることもある。
 
<参考図>




図1.炊飯米の食味 
移植区(2015,2017,2018年平均)、基準:ひとめぼれ(標肥)


写真1.「しふくのみのり」の株標本 
左:しふくのみのり、中:ひとめぼれ、右:萌えみのり


写真 2.直播栽培(標肥)における「しふくのみのり」の草姿(秋田県大仙市、2018年9月24日撮影) 左:ひとめぼれ、中:しふくのみのり、右:萌えみのり
 
写真 3.「しふくのみのり」の籾および玄米(秋田県大仙市、2018年産)
左:しふくのみのり、中:ひとめぼれ、右:萌えみのり