2021.07.20(火)

畝立て、直下施肥、溝底播種が同時に

できる作業機、タマネギの直播栽培が

安定する(農研機構、JA全農、クボタ)

   農研機構は、タマネギを直播栽培で効率的•安定的に生産するために、畝立て、直下施肥、溝底播種および農薬(粒状)散布が同時にできる作業機を開発した。畝の上に小さな溝を作り、溝底に施肥を行い、肥料の直上2cm程度のところに播種することができる。JA全農とタマネギの直播栽培の共同研究を行い、この作業機を使用することで大幅な省力化と生産コストの削減をしながら出芽•生育を安定させ、一般的な移植栽培と同等以上の収量結果を得ることができた。2021年7月に(株)クボタから販売を開始した。
   農業人口の減少や高齢化が進む中で、農業を行う経営体の規模拡大が進んでいる。露地野菜栽培において、規模拡大を進めるために省力化が求められている。その対応技術として取り組まれているタマネギ直播栽培のさらなる効率化•安定化を図るため、畝立て、直下施肥、溝底播種および農薬(粒剤)散布が同時処理可能な作業機を開発した。
   開発した作業機を使って、直播タマネギの秋まき作型で全農JA西日本営農技術センター(広島県東広島市)及び農研機構九州沖縄農業研究センター都城拠点(宮崎県都城市)の各試験ほ場で試験を行った結果、3年間の播種後11日目の平均出芽率は10%向上し、初期生育も良くなり、3年間の換算収量は平均6t/10a以上であった。歩行型全自動移植機を導入した移植体系と比較して、育苗作業がなくなり、労働時間は24%削減できると試算している。
   この共同研究の結果から、(株)クボタと農研機構で作業機の改良を進め、農薬散布部はオプションとした形で2021年7月に販売を開始した。メーカー希望小売価格は、税込み158万円~179万円だ。
<関連情報>
予算:共同研究「畝上作溝機能付き播種機を利用したタマネギの直播技術の開発」、農林水産省食料生産地域再生のための先端技術展開事業「大規模露地野菜の効率的栽培管理技術の実証研究」特許:特許第6253018号
<問い合わせ先>
研究推進責任者 : 農研機構九州沖縄農業研究センター所長 森田敏
研究担当者 : JA全農 営農•技術センターセンター長 遠藤雄士 
      農研機構九州沖縄農業研究センター 暖地畑作物野菜研究領域上級研究員 松尾健太郎広報担当者 : 同広報チーム長 仲里博幸
 
<詳細情報>
開発の社会的背景
   高齢化などにより、年々、農業従事者数は減少し耕作放棄地が増え、受け皿として経営規模の大きな農家や法人が増加している。今後も高齢化は進み、経営体の規模がさらに拡大すると考えられる。一方で主食用米の需要量は減少し続けており、農林水産省では需要に応じた生産の推進策として、転換作物を拡大した場合には支援金を配分するなどして、転換作物の栽培を進めてきた。
   タマネギは移植機や収穫機も市販されており、機械化体系がほぼ完成した露地野菜で、規模拡大や転換作物に適している。またタマネギの輸入量は、輸入される生鮮野菜の中で最も多く、平成29年では約29万トンにもなる(2020農林水産省)。昨年11月以降、北海道以外の地域でもタマネギの播種直後に使用できる除草剤が2剤登録され、タマネギ直播栽培における除草の問題が解決されつつある。
研究の経緯
   国産タマネギの単価は82円/kgで、輸入タマネギの47.6円/kgと比較して高く(2020 農林水産省)、輸入タマネギの代わりに国産タマネギを増やすためには、単価を下げる必要がある。タマネギ栽培はほとんどが移植栽培で行われ、育苗期間が長く育苗本数も24000本/10a程度と多い。このために多くの労働時間と資材等が必要で、生産費を高くする要因になっている。北海道では生産費を下げるために、育苗を必要としない直播栽培に取り組まれているが、東北地方以南では普及は進んでいない。
   直播栽培は天候の影響を受けやすく出芽や生育が不安定だ。農研機構ではタマネギの生育を促進する技術として、リン酸を種子の直下に施肥する リン酸直下施肥技術 1)、出芽や生育を良くする技術として、溝の底に播種する 溝底播種技術 2)を開発してきた。しかしこれらの技術を組み合わせて使うことができる作業機がなかった。
   そこで農研機構では、既存技術である雨による湿害を回避できる畝立て技術に加えて、新たに直下施肥、溝底播種を1工程で行うことが可能な作業機(特許第6253018号)を考案し、全農との共同研究や農林水産省食料生産地域再生のための先端技術展開事業で、この作業機を使ったタマネギの直播栽培技術を検討し、直播栽培でも移植栽培と同等以上の収量を得ることが可能であることを示した。この結果を受けて、クボタと農研機構で作業機の改良を進めた。
研究の内容•意義
①開発した作業機は、耕うんして畝を立て、畝の上に小さな溝を4本作り、その溝底に直下施肥および播種を行い、さらに農薬(粒状)散布を行うことができる。
②作業機の構成は、耕うん部、畝および溝の成型部、施肥部、播種部、農薬(粒剤)散布部から構成されている( 写真1)。トラクタの適応馬力は28PS以上。耕うん部は クボタ逆転ロータリ 3)を用いたことで、畝の表面の土は細かくなり、直播栽培に適した条件にすることができる。
③畝形状は幅150cm、高さ20cm若しくは25cm、畝上面の幅100cm( 図1)。この畝に深さ5cm、幅10cm程度の溝が4本ある。施肥の深さは、畝の上面から8cm(溝底から3cm程度)と一定だ。播種の深さは調節が可能。調節は土の状態によって変動するので、ほ場で実際に作業を行い播種用溝切り器の取り付け高さを調節して、播種の深さを溝底から2cm程度に調整する。条間(溝間隔)は20cmもしくは24cmで、播種間隔は播種機のベルトの交換等により、4~40cmに調節できる。
④本作業機の特徴は、畝の成型部から播種部にある( 図2)。(1)溝成型器は畝成型板の内部から後方に伸びている。これにより畝と溝が同時に作られるので、畝を壊すことなく溝が成形できる。(2)肥料は溝成型部内の導管から落とされ、確実に溝底に施肥される。(3)肥料覆土板で溝の一部を削って覆土をする。(4)覆土の上に播種用溝切りで溝を作り、そこに播種する。(5)種子覆土板で、もう一度覆土する。(6)鎮圧輪(兼播種機の駆動輪)で鎮圧して溝を整形する。
⑤タマネギ直播栽培に対する畝立て+溝底播種(以後、 溝畝播種 4))の効果:播種後に降雨がない(少ない)日が続く場合は、出芽率や初期生育が平畝と比較して良くなる( 図3写真2)。但しほ場の 砕土率 5)が悪いと効果が現れない場合がある。また、収穫日の目安である 倒伏日 6)鱗茎重 7)にも影響を与えるが、その影響は 早晩性 8)により異なる。例えば倒伏日については、平畝播種と比較して溝畝播種では早生品種ほど早くなり、晩生品種ではほぼ同じになる( 表1)。
⑥タマネギ直播栽培に対する溝畝播種+リン酸直下施肥の収量に与える効果:溝畝播種だけでも本作業機の効果はあるが、リン酸直下施肥を加えることでより鱗茎重が増加する( 表2)。また、早生品種では、溝畝播種により倒伏が早くなったことで、鱗茎重が増加せず、平畝に播種した場合と同等の収量になる場合があるが、リン酸直下施肥を加えることで、収量が増加した上で収穫が早くなる。但しリン酸直下施肥は、リン酸が肥沃なほ場では効果が現れない場合がある。
今後の予定•期待
①本作業機は(株)クボタから2021年7月に販売を開始した。
②この作業機を導入することで、本州以南でタマネギ直播栽培の生産が安定し、作業時間及びタマネギの生産コストの削減が期待できる。規模を拡大し更に低コスト化を進めることで、輸入タマネギに対抗することができ、業務加工用でも国産タマネギの使用量の増加が期待できる。
③導入が期待できる地域は、今までタマネギを栽培していなかった地域。ほ場でリン酸が少なくても、直下施肥で補うことができるので、特に水田の転換作物としての導入が期待される。
④キャベツなどタマネギ以外の露地野菜についても、この作業機を用いた直播栽培の検討を行う予定。
⑤この作業機を直進アシストトラクタなどのスマート農機と組み合わせることで、移植栽培では難しかった露地野菜におけるスマート農業化の加速が見込まれる。
用語の解説
リン酸直下施肥技術
   出芽直後に効率良くリン酸を吸収させるために、種子直下にリン酸を施肥する技術 (タマネギ直播栽培における直下施肥を用いたリン酸肥料の減肥技術参照)。
溝底播種技術
   小さな溝を作り、播種床(溝底)に当たる日射が減ることで、土壌水分を高く維持し、地温の変動を少なくし、播種床を発芽に適した状態にする技術だ。
クボタ逆転ロータリ
   回転方向および耕うん爪が普通ロータリと反対になっており、耕うんした土が後方に跳ね上げられ、大きな土の塊はロータリカバーの中にある櫛を通過できずに落ち、通過した小さい土が大きな土の塊の上に落ちる。この結果、圃場の表面の土を細かくすることができるロータリだ。
溝畝播種
   降雨による湿害を避けるために畝の上に溝底播種をする方法のこと。
砕土率
   ほ場の土の塊の大きさを表す値。ふるい目の大きさが特に書かれていない場合は、ふるい目20mm以下の土の割合を示す。
倒伏日
   タマネギは、玉が肥大して充実すると葉が倒れる。これを倒伏といい、収穫の目安になる。
鱗茎重
   普段から食べている玉(外に出てこない葉(葉鞘だけの葉)や葉の根元が肥厚してできた部分からなる玉)の重さのこと。
早晩性
   播種してから収穫に至るまでの期間の長さを基準とした性質のこと。収穫までの期間が短い品種を早生品種、長い品種を晩生品種という。
発表論文
   松尾健太郎、山本岳彦、山崎篤(2020):東北地域のタマネギ春まき直播栽培における溝畝播種法の効果、農作業研究55(2):65-70
 
 
<参考図>




図3 播種後11日目の出芽率
※播種後11日間の降水量は、2017:34mm、2018:3mm、2019:42.5mm。
※出芽率は2017:6品種、2018:2品種、2019:3品種の平均値。
※試験場所は農研機構九州沖縄農業研究センター都城拠点。
※2018年は播種後13日目で平畝も溝畝も出芽率は90%以上になっている。

写真2 溝畝播種の初期生育の促進例 
表1 溝畝播種、品種の早晩性と倒伏日の関係
 
※播種日は2017年10月5日、場所は農研機構九州沖縄農業研究センター都城拠点のほ場。
※倒伏日は倒伏した株が80%を超えた日のこと。
 
表2 溝畝播種+リン酸直下施肥の効果

※品種:ターザン、場所:JA西日本営農技術センター(広島県東広島市)の真砂土を多く含むほ場
※播種日は移植も直播も同じ2018年9月19日。移植日は11月16日。
※播種および移植間隔は10cm。1畝4条、畝幅1.6m、条間20cm、栽培本数25000株/10a
※基肥は成分量(N-P 2O 5-K 2O)で10-30-10kg/10a、リン酸直下施肥を行った場合は、基肥の
 P 2O 5の20kg/10a分を種子の直下に施肥した。
※追肥はすべての区で行い、3回(12月、1月、2月)に分けて、1回あたり成分量で4-4-4kg/10aを
 施肥した。
※従来機は開発機の溝成型部を外して、播種機を元に戻した状態(接地輪の幅は市販の半分のまま)
 で畝立て同時播種を行った。