2021.11.02(火)

生物系特定産業技術研究支援センター

海外にも通用する日本酒のための新品種

続々登場!

    日本酒の造りやすさに優れ、生産者が栽培しやすい、次世代の酒米品種を使った海外にも通用する日本酒が続々と登場し始めている。兵庫県立農林水産技術総合センターが中心となって組織された「次世代酒米コンソーシアム」は日本酒の輸出拡大を視野に研究開発を進めてきたが、そのうち、石川県と兵庫県での成果事例を紹介する。
「百万石乃白」を原料にした酒が続々と登場 
   酒どころとして知られる石川県で「百万石乃白」(ひゃくまんごくのしろ)というユニークな愛称の酒米を原料にした酒が数多く登場している。兵庫県で育成された「山田錦」は精米歩合を上げやすく大吟醸酒に適した酒米として全国に知れ渡っているが、草丈が高くて倒れやすく、収穫時期が遅いため、石川県全域では栽培できない弱みがあった。
   そこで、石川県農林総合研究センターは大吟醸酒に適していながら、倒伏しにくい酒米品種の育成に乗り出した。11年の歳月をかけて、ようやく「山田錦」の性質を引き継ぎながら、収穫時期が早いなど石川県全域で栽培できる「石川酒68号」(写真1)を生み出した。生産者、酒造業者、酒販売店、消費者の四者にメリットがある画期的な新品種だ。
 

写真1「石川酒68号」
(左)の背丈は「山田錦」(右)より低い(石川県提供)
   「石川酒68号」の特性を調べたところ、酒の雑味に関係するタンパク質が他の酒米に比べて少なく、さらに玄米の表面をたくさん削り取っても割れにくいため、50%以下まで削った米を使う大吟醸酒に適していることもわかった。出来上がった酒はすっきりした味わいとフルーティーな香り成分に富んでいる。
   2019年に「石川酒68号」の愛称を募集したところ、全国から約3,000件の応募があり、「百万石乃白」に決まった。「百」と「白」の文字をモチーフに混じりけのない純粋さを象徴するロゴ(図1)も誕生した。このロゴは「百万石乃白」で醸造した酒に付与される。
   これまで石川県内の24の醸造メーカーが「百万石乃白」を使った酒を製造•販売している(写真2)。また「Kura Master」など国際コンクールで入賞する商品も誕生している。石川県は「まずは地元での発信に軸を置きつつ、今後は首都圏でも情報を発信し、将来的には海外への輸出につなげていきたい」と石川県オリジナルの酒米の普及•拡大に取り組んでいる。

図1 「百万石乃白」のロゴ

写真2 新品種「百万石乃白」を使って
造られた石川県の各種の新酒(石川県提供)
 
「Hyogo Sake 85」が海外へ進出
   日本から海外へ輸出できる日本酒の開発がいま求められている。その先兵となりそうなのが兵庫県立農林水産技術総合センターで育成された新品種「Hyogo Sake 85」を使って醸造された酒だ。酒どころ「兵庫」を世界にアピールするため、全国で初めてローマ字表記を冠した品種である。酒米の王者といわれる「山田錦」を父にもつ。
   その大きな特徴は、酒造りに適した米に必要とされる「心白」(しんぱく)が多く占めていることだ。心白とは米粒の中心部にある白っぽい塊で、この部分は荒いデンプン構造のため、米麹が育ちやすく、糖になりやすく、アルコール発酵がバランスよく進む。さらに「Hyogo Sake 85」はいもち病に強く、多収で高温への耐性も備えている。
   また、この酒米で造られた酒は、バナナの香りといわれる「酢酸イソアミル」、リンゴの香りといわれる「カプロン酸エチル」などかぐわしい香気成分に富むこともわかった。酸度が低く、上品な口当たりで、のどごしがよいのが特色だ。
   これらの研究成果を背景に、2018年から兵庫県内の10の酒造メーカーが「Hyogo Sake 85」を使った酒(写真3)を続々と販売し、2019年から山名酒造(株)は香港へ、香住鶴(株)は中国へ輸出を始めた。兵庫県内の居酒屋やレストランでも人気上昇中だ。「Hyogo Sake 85」の栽培面積も2021年に8haと目標の7haを超え、生産者も6人(写真4)に増えている。同センターの杉本琢真研究員は「将来は西欧などにも輸出を展開し、酒米や日本酒のファンを世界中に増やしていきたい」と夢を語っている。

写真3 山名酒造の「Hyogo Sake No.85」(左)、香住鶴の「Hyogo Sake 85」(中央)、西山酒造の「干支ラベル2021」(右)=兵庫県立農林水産技術総合センター提供

写真4 「Hyogo Sake 85」を収穫する兵庫県丹波市の生産者、農協職員ら(兵庫県立農林水産技術総合センター提供)
 
 
事業名:革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)
事業期間:平成28年度~平成30年度
課題名:「山田錦」レベルの優れた適性を有する酒米新品種と革新的栽培・醸造技術の活用による日本酒輸出倍増戦略
研究実施機関:兵庫県立農林水産技術総合センター、石川県農林総合研究センター、京都府農林水産技術センター等