2020.02.17(月)

ASFウイルスはニホンイノシシにも感染し

豚と同様の症状と病変を引き起こすことが

判明する(農研機構)

   農研機構は現在東欧やアジアで流行している ASF(アフリカ豚熱) 1) が、ニホンイノシシに感染するか否か、また感染した場合の症状や病変について検証した。ニホンイノシシ4頭の筋肉内にASFウイルスを接種する試験を行ったところ、接種後5日目に1頭が6日目には2頭が死亡し、残る1頭も瀕死状態に至った。解剖検査では全頭で豚と同様の急性型の病変が認められた。これらの結果からASFがニホンイノシシにも感染し、豚と同様の症状と病変を引き起こすことが確認された。 
   その概要を説明すると、ASFは欧州に生息するヨーロッパイノシシに感染することが知られている。ASFが日本で発生した場合には、野生のイノシシ(ニホンイノシシ)を介したウイルスの拡散が懸念されるが、ASFがニホンイノシシに感染するか否か、また感染した場合の症状や病変については不明であった。そこで今回接種試験によりその検証を行った。
   流行株である ASFウイルス Armenia07株 2) を、ニホンイノシシ4頭の後肢へ筋肉内接種した。ASFウイルスを接種したニホンイノシシは接種後4日目から全頭が元気消失し、食欲も低下した。接種後5日目には1頭が、また6日目には2頭が死亡し、残る1頭も瀕死の状態となったため接種後6日目に安楽殺して、全頭を解剖検査に供した。
   検査ではASFウイルスを接種したニホンイノシシの脾臓は全て黒色調を呈し、著しく腫大していた。また胃の周囲のリンパ節をはじめとする腹腔内のリンパ節は暗赤色調を呈し、血液凝固が不全になるなど、いずれのニホンイノシシでもASFに感染した豚と同様、急性型のASFに特徴的な所見が認められた。
   本試験の結果から、現在広く流行しているASFウイルスはニホンイノシシにも感染し、豚と類似した症状を引き起こすことが確認された。国内に侵入した場合は、野生イノシシによるASFの拡散に対して警戒が必要である。本試験で得られた知見は、農林水産省が主導する本病の防疫対策に活用される。<関連情報>予算:農林水産省委託プロジェクト「家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発」
 
   この件の問い合わせ先は[研究推進責任者]農研機構動物衛生研究部門研究部門長の筒井俊之、[研究担当者]病態研究領域の山田学、生澤充隆、[広報担当者]同本部広報課 広報専門役の吉岡都まで。
 
詳細情報
<開発の社会的背景>
   ASFは有効なワクチンや治療法がなく、発生した場合の畜産業界への影響が甚大であることかRら、家畜伝染病予防法において「家畜伝染病」に指定され、患畜•疑似患畜の速やかな届出とと殺が義務付けられている。ASFの制御が困難な理由の一つとして、野生イノシシによって広範囲にASFウイルスの拡散が引き起こされる点が挙げられる。
   2007年から流行が続く欧州では、ASFウイルスがヨーロッパイノシシに感染したことにより域内に広く拡散し、撲滅を著しく困難なものにしている。万一ASFが日本で発生した場合も野生のイノシシを介してウイルスが拡散することが懸念されるが、国内に生息するニホンイノシシのASFウイルスに対する感受性や感染後の病態は明らかにされていない。そこで本試験ではASFウイルスのニホンイノシシに対する病原性を検証した。
<研究の内容•意義>
①現在広く流行しているASFウイルスArmenia07株をニホンイノシシ4頭の筋肉内に接種し、臨床症状を6日間観察した。死亡もしくは安楽殺後に解剖検査を行い、病変を確認した。
②臨床症状については、ASFウイルスを豚に接種した場合と同様に、接種後4日目から元気消失•食欲不振を示して、接種後5日目に1頭が、また接種後6日目には2頭が死亡し、残りの1頭も瀕死状態に陥った。このことからASFウイルスのニホンイノシシに対する病原性は豚に対するのと同じくらい強いことが確認された。
③解剖時の肉眼病変としては、ASFに特徴的な脾臓の黒色化と著しい腫大( 図a )ならびに腹腔内リンパ節の暗赤色化( 図b )が全頭で確認された。またASFウイルス感染豚と同じように肺水腫や消化管粘膜の出血、血液の凝固不全がみられた。これらの病変はASFと他の疾病との鑑別において重要な所見であると考えられる。
④遺伝子検査によりウイルスの排泄状況を調べたところ、接種後3日目には全頭で循環血液中および鼻腔ぬぐい液中にASFウイルスの遺伝子が検出され、うち2頭では唾液中にもさらに1頭では糞便中にもウイルスの遺伝子が検出された。
   以上のことから、現在流行しているASFウイルスは、ニホンイノシシにも感染して、豚と同じような症状を引き起こすとともに、体外へも排泄されることが確認された。
<今後の予定•期待>
   本試験で得られた成績は、農林水産省などが実施する本病の防疫における基礎的知見として活用される。
<用語の解説>
ASF(アフリカ豚熱) ASFウイルスの感染による豚とイノシシの法定伝染病で、高い致死率と強い伝染力が特徴。
ASFウイルス Armenia07株 現在東欧やアジアで流行している強毒株で豚に強い病原性を示す。
 
<参考図>図ASFウイルスを接種したイノシシの解剖所見

図ASFウイルスを接種したイノシシの解剖所見
a: 黒色調を呈して著しく腫大した脾臓(矢印)。
b: 胃の周囲のリンパ節の暗赤色化(矢印)。通常周囲の脂肪組織にまぎれて目視しにくい胃の周囲の
 リンパ節も色調の変化により容易に確認できる。